ある1人の平凡な男がブラック企業にたった1人で立ち向かう物語を書いてみました。
あくまでも小説で実話ではありません。
男の名前をオキとします。
オキは幼少期に父親を亡くし、母子家庭で育ちました。
オキの家は貧しく、オキの母親は朝から晩まで働いても親子でギリギリ食べていけるぐらいの給料しか貰えず、そんな母親の苦労を見て育ったオキは、将来母親に何不自由のない裕福な生活を送らせたいと強く思っていました。
その夢を叶えるためには自分が大企業に入社し、そこで出世し、お金持ちになるしかないと考えていました。
そのためにオキは学費が安い国立大学を目指し、特に高校時代は遊びたいのを我慢してひたすら勉強に励みました。
好きな女子もいましたが、彼女をつくって遊んでいる場合ではないと自分に言い聞かせ、恋心を封印して生きてきました。
塾に行くお金もないので、幼少期からずっと使わずに貯め込んだお金で、大学受験のための参考書を買うことにしました。
欲しい参考書は沢山ありましたが、予算の関係上、各教科1冊ずつしか買えないので、本屋に何度も足を運びながら真剣に吟味した上で参考書を選びました。
その後は参考書の問題を何度も何度も繰り返し解くことで答えを暗記するまでになり、参考書以外の問題も余裕で解けるようになりました。
その努力が実り、国立大学に受かり、そこでも遊ぶことはなくバイトをしながら真面目に大学に通い、さらに大卒よりも大学院を出た方が大企業の出世に有利なことを知り、大学院までいきました。
そしてついに念願の大企業に入社することができました。
入社後に参加した合コンでも会社名を言うだけでモテモテでした。
会社名を言った瞬間、好みの女性がアタックしてきたので、すぐに付き合い結婚しました。
オキは母親に仕送りするのを結婚の条件にしましたが、彼女は快諾してくれました。
母親への仕送りだけではなく、妻やこれから生まれてくる子供のためにも沢山稼がねばと、オキは出世意欲に燃えていました。
一見すべてが思い通りで順風満帆のように見えますが、しかし入社後の研修が終わり、正式に部署に配属されてからは、ブラック労働がオキを待ち受けていました。
長時間残業はもちろんのこと、一人ひとりの仕事量が多すぎるので、平日では仕事を全て消化できず、休日もパソコンを家に持ち帰り、仕事をすることがほとんどでした。
しかしオキはここで誰よりも頑張れば出世できると、妻との時間よりも仕事を最優先しました。
それから数年後に子供も生まれました。
しかし相変わらず仕事が忙しいので土日のほんのわずかな時間に家事、育児を手伝えるぐらいで、平日の夜中に自分が帰宅する頃には、妻や子供も寝ているというすれ違いの日々が続きました。
オキには自由な時間がありませんでした。
しかし、何の取り柄もない平凡な自分が大企業の社員になれたという喜びと、給料が高いので母親にも仕送りができ、家族を余裕で養うことができているので、ブラック労働には耐えられました。
そんなある日、オキの同期が自殺したことを知りました。
自殺した同期はオキよりも、忙しい部署にいて、そこでパワハラにあっていたことを知りました。
自殺した同期とは一年前に偶然町で会ったのが最後でした。
その時の彼の顔色は悪く、何か深刻な悩みを抱えているような雰囲気で、あの入社当初の希望に満ちた明るい笑顔はすっかり消えていました。
お互い頑張ろうぜと言って別れたけど、あの時もっと話を聞いてやればよかったと、オキは後悔して後悔して一日中泣きました。
オキは当然、尊い命を奪ったパワハラ加害者は社内で公開され、クビになるものだと思っていましたが
しかし会社は、パワハラで自殺者が出たという事実をひた隠しにするだけでした。
加害者の追求もシークレットで自殺防止の改善策など一切しません。
それでは死んだあいつが浮かばれないじゃないか!!!
それからオキは会社に対して不信感と嫌悪感でいっぱいになりました。
それまでのオキは愛社精神でいっぱいで、会社に対して客観的に見れないことが多々ありましたが、
今回の血を吐くような悲しい出来事により、会社の実態を冷静に客観的に観察できるようになりました。
オキから見た会社の実態とは
- 人の命を軽視する
- 従業員の幸せはどうでもよく、会社の利益ばかりを最優先する
- 過酷すぎる労働環境を少しも改善しようとしない
- パワハラ加害者に処罰をするどころか、パワハラ対策をしないのでパワハラはやったもん勝ちになっている
- 昇格に関しても公平な評価をしない。パワハラ加害者でも普通に昇格でき、逆にパワハラ被害者は使えないとみなされ昇格できない矛盾
- 従業員の要望には一切耳を傾けようとしない
- 会社から一歩外に出ると全く役に立たないスキルしか身についていない(他の会社に転職されないようにしている)
オキは上記の会社の問題点を会社が少しでも改善するよう上司に訴え続けましたが、どの上司からも煙たがられるだけで、オキの評判が悪くなる一方でした。
オキは出世の道も閉ざされ、逆に上司へのゴマすりがうまい人、上司の言いなりになる人、人に雑用を押し付けるせこい人ばかりが出世していくのを目の当たりにしました。
オキ以外に会社を変えようとする者は1人もいなく、出世が命の人か、過酷なブラック労働や人間関係で病んでいる人のどちらかしかいませんでした。
オキは、一向に変わる気配のない会社に絶望し、この会社に太刀打ちできるようになるには、自分がブラック人間になるしかないと意を決するのでした。